この1年、ほぼ毎月、文部科学省の数学イノベーション委員会に出席させていただいております。ここでは、数学と諸科学、産業との融合の話をしています。文部科学省の委員会なので、当然アカデミアの課題と解決方法について、議論しています。

文部科学省
が、出席していると産業界の古い考え方、組織、研究方法が、日本の科学の振興や、経済成長を抑制しているのではないかと思う時も多々あります。例えば、秘密主義。つまり、研究内容を社外秘にするあまり、実は誰が研究しているのかも公開されず、結果民間の研究についた途端、研究者同士の交流が途絶えたりします。Open Innovationや、ハッカソン的な研究・技術開発の時代に、この方法で良いのだろうか?などと考えます。
そして、さらに問題なのは、高度化する科学を、わかりやすくビジネス・パーソンに伝えられるかという問題です。今回の、重力波の発見の報道でも、なんかパッとしないのは、きっときちんと科学と私たちを繋ぐ、プロの科学説明者が少ないからではと思うのです。
以前、このBlogで、「ノーベル物理学賞の小林先生に見る、専門家と専門屋の違い」で、本当の科学者は、自分の領域を簡単に説明できる能力もあることを書きました。しかし、すべての科学者にそのような能力がないことも認めると、きちんと科学の説明をできる能力のある人も求められているのではないでしょうか?
そんなおり、1冊の本に出合いました。

「現代の事例から学ぶサイエンスコミュニケーション:科学技術と社会とのかかわり,その課題とジレンマ」という本です。そう、「サイエンス・コミュニケーション」という領域があることも、この本に出合うまで知りませんでした。確かに、科学の進化は、新しい価値や倫理が求められることもあります。AIの進化と私たちの働き方の変化などは、本来科学者だけでなく、全市民で考えてもよいテーマであり、必要によってはAIの進化を止めてもよいのです。
このような科学の正しい理解も含め、この本では、サイエンスコミュニケーション活動に次の6つの目標を提案している。
- 社会の複雑な仕組みのなかで科学を気づかせることを推進すること
- 個々の組織の発展を促進すること
- 一般の人々への説明責任
- 次世代の科学者やエンジニアを募ること
- 科学や新しいテクノロジーを受容すること
- 妥当な、また効果的な意思決定を支援すること
これからも、科学は進化するので、その科学の説明責任もあるし、また次世代の科学者を募るという発展も目標にしている「サイエンス・コミュニケーション」。きっとのこの取り組みは、アカデミアと産業界の科学の融合に必要な機能だと思う。さらには、企業間の研究の架け橋にも「サイエンス・コミュニケーション」は必要なのではないかと思う。
日本のビジネスの世界では英語が必須と長らく言われてきた。これからは、企業の科学者の一部には、「サイエンス・コミュニケーション」が次のコミュニケーションとして重要視されるだろ。私もしっかりこの取り組みを理解したいと思っている。